自然相手に正解はない、でもそれが楽しい

筑後川がもたらす栄養、ノリ芽の成長に最適な海水温と塩分濃度。海苔作りとは、そうした自然がもたらす絶妙なバランスを相手にした、まさに神業的な職人仕事。『福岡有明のり』の最高ランク『旬』を狙う海苔師の、『種付け』から『一番摘み(初摘み)』までを追いかけた。

『種付け』解禁日、朝5時からそれぞれの漁場で網張り作業を行う。徳永さんは2期目の冷凍網分も合わせて1200枚の網をこの日張った

柳川生まれの現在42歳。18歳から仕事を手伝い、30代で父親から事業承継した

『種付け』解禁直後、新しいノリ網が賑やかに並ぶ風景

『種付け』前日に見られる『殻入れ』の風景。落下傘と呼ばれる袋にカキ殻を入れていく作業(写真右)

『種付け』から約1ヶ月。ノリ芽も随分伸びて、そろそろ摘採(一番摘み)のタイミング

ノリ芽が10cmほど育ったら、半分の網を海から引き揚げ、乾燥させて冷凍庫で保管。1月に再び海に戻し、2期目の養殖を行う

12月初旬、いよいよ秋芽の『一番摘み』がスタート。テンマ(箱型の船)に載せた摘採機に網を通しながら、伸びたノリ芽の先端をカット。摘採したノリ(原藻)は船の中に溜まっていく

シーズンの『福岡有明のり』養殖の『種付け』の解禁日は11月4日。解禁日の決定は各漁協を束ねる福岡有明海漁業協同組合連合会が決定する。例年は10月中旬か下旬頃に行われるが、今年は10月の水温低下が遅れたためだ。
『種付け』は、ノリのタネを植え付けたカキ殻をノリ網にくくり付け、その網を翌朝一斉に漁場に張り込む作業をいう。この日をノリ養殖の解禁日として、毎年秋の風物詩のように報じられるが、『種付け』に適した海水温度の目安は23℃。『種付け』の日程は2週間前までに水温を予想して決めなければならず、初日の海水温次第で、ノリの出来の良し悪しに関わるほどとても重要な決定だ。「ノリ養殖で重要なのは、水温、栄養、比重(塩分濃度)の3つ。そのバランスが少し変わるだけで、すぐノリに影響がでます」という。徳永さんの漁場は、筑後川の河口沖にあたり、川から流れ出る栄養を受けやすい場所にある。ただ栄養は多いが病気が発生しやすいという欠点もあるそうだ。
『種付け』から約1ヶ月後、いよいよノリの摘採がはじまった。網には黒々としたノリが長さ20センチほどに成長している。場所により栄養不足で色が薄くなる網もある。
「昨日、良かった色が、今日は悪くなったり、かと思えば翌日はまた良くなってたり…自然相手なので、正解がないです」。でも、それが逆にノリと向き合う楽しさでもあると言葉を加えた。「毎日、ノリを見ながら、ああしよう、こうしようと考えるのが本当に楽しいんです。究極の願いはノリと話ができるようになりたい!」。
18歳からノリ養殖の仕事をはじめて24年。ようやくなんとなくわかるような気がしてきたが、毎日が勉強、毎年が1年生…と言う。「この時期になると、天気予報と潮汐表をみながら、四六時中ずっと電話かけてます」と、佐賀県や熊本県の同業者とも情報交換している。海がつながっているように、横のつながりも今は大切だ。ただ漁場が違えば、環境もやり方も違う。自分のやり方は自分で考えて決めるしかない。それが海苔師としてのプライドでもある。「シンプルに美味しいノリを採りたい。誰よりも早くちぎって、最高ランクの証である『旬』を狙いに行く。これが海苔師の醍醐味じゃないですか」と目を輝かせた。
美味しいノリかどうか、どのタイミングでわかるのか聞いてみた。「摘採前でもある程度は予想できることもありますが、やっぱり四角にして(板海苔にして)みないとわからないですよ」。
結果がすべて。自分を信じて、ノリを信じて、最高の出来栄えを追いかける。明日の海は、さてどんな答えを出してくれるだろうか?